
今回対談させていただいたのは、開沼博さん。震災後、ご自身の修士論文をもとに記された著書「「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか」において、原子力発電所を取り巻く構造を地方と中央の関係性などの斬新な視点で述べられ注目を集め、最近は人気テレビ番組に評論家として出演されるなど、新進気鋭の社会学者としてご活躍中です。
ご自身は、いわき市のご出身。現在は、東京大学大学院学際情報学府博士課程在籍しながら、福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員としても活動していらっしゃいます。
震災以前以後において、故郷福島県を取り巻く環境をつぶさに観察されてきた開沼さんの視点で、いま福島県の農業が抱えている諸問題や今後の道筋・展望などをお聞きしました。
今回はその4です。
その1 人々の生活を見る (2013年10月24日公開)
その2 価値観の違いを尊重する (2013年10月25日公開)
その3 みんなのために、地元のために (2013年10月28日公開)
その4 互いにおぎなう (2013年10月29日公開)
その5 この状況だからこそ生まれる可能性 (2013年10月30日公開)
その6 自分の内側を (2013年10月31日公開)
その7 市場の話をしよう (2013年11月1日公開)
公共の新たな担い手

では、意見を出し合える環境が整ってきたとき、その意見をどうやって集約し実現していけばいいのか、その点についてお聞きしました。
「地元の人、今まで行政や政治に直接関わり、地域を支える立場になかった人たちが、意見を集約して実現する “公共”の部分を支えていくことが重要だと思います。」
その具体例として、
「NPOや社会企業というものが分かりやすいですが、持続可能な形を作りながら社会貢献もしていく組織、その中には地元の中小企業や自治会・大学なども含まれます。そういった新たな担い手が地域のために“公共”を支えていく。
今まで自治体がやってきてくれたこと、雇用創出・コミュニティ形成・社会的弱者の包摂、そして今農業で起きている価値観の相違を調停していくようなことを、みんなで支えていくことが重要だと思います。」と開沼さん。
特に、大きな困難に立ち向かい復興を目指している福島県においては、自治体の取組みを地元のプレーヤーたちが補うこと、地元のことを地元の人が考え行動することの重要性を強く認識させられました。
上記の点を、福島県の農林水産業の現状に置き換えた開沼さん。
「福島県の農林水産物をいくら安全だと言っても、いくら制度を整えても“信頼できない”といったそれだけでは掬いきれない価値観がある中で、安全性・安心感・興味関心といったものをもう一度回復していくために、地元のみんなから動くことができる部分があると思います。」


全ての対応を自治体などにお願いしたままにするのではなく、当事者である農業者あるいは地元の人たちが補う。それぞれがやれることをやり、やれないことを互いに補えばいい、そしてそれが必要な場面は大いにある。私の思考は非常にシンプルで明快なものとなりました。
次回、この状況だからこそ生まれる可能性 は10月30日にお届けいたします。