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子どもたちに家業をやれという事は無かった 国見町 果樹農家 渋谷貞明さん 渋谷雅人さん -その1-

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果樹農家 渋谷貞明さん 渋谷雅人さん

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果樹農家 渋谷貞明さん 渋谷雅人さん

福島県を代表する農作物といえば、多くの方が“モモ”を思い浮かべるのではないでしょうか?そう、福島県はモモの生産量が全国第2位(平成25年産 農林水産省統計)の大産地です。
もう一つ、全国的に高い評価を受けている農作物の加工品として知られているのは、上品で濃厚な甘さがたまらない“あんぽ柿”。こちらは福島県が発祥の地でもあります。
 
この“モモ”と“あんぽ柿”は東日本大震災に伴う原発事故により、大きな被害を受けました。“あんぽ柿”は生産・加工を一時見合わせるなど、その存続すら一時危ぶまれていましたが、昨年生産が一部再開されました。
一方“モモ”は消費の回復がみられるようになってきましたが、なかなか思うように以前の活況を取り戻すには至っていません。
そのような厳しい状況の中、経営規模拡大をめざし意欲ある若手後継者と共に生産に勤しむ農家さんがいらっしゃる事を知りました。宮城県との県境に位置する県北の国見町でモモ農家を営まれている、渋谷貞明さんとその後継者の渋谷雅人さんです。今回はそのお二人のお話をうかがいました。

 
本日より3回に渡ってお届けします。
その1 子どもたちに家業をやれという事は無かった     (2014年9月24日公開)
その2 風評による影響とは言いたくない          (2014年9月25日公開)
その3 人で決まるんだ                  (2014年9月26日公開)

 

果樹に集中したいけれども

対談に訪れた日は、モモの主力品種である“あかつき”の収穫が終わり、晩生(おくて)の“川中島白桃”の収穫が始まったばかりの頃でした。
モモ農家さんにとっては一年で最も忙しい時期であるにもかかわらず、渋谷さんは快く私を迎えてくださいました。

貞明さんに経営規模をうかがうと、
「モモが3ヘクタール、あんぽ柿用の柿も同じくらいかな。時間をかけて果樹の規模拡大と投資を行ってきたので果樹に集中して田んぼの仕事を減らしたいんだけど、この辺りはコメの生産を大規模に請け負う所があまりないのでなかなか難しい。」

渋谷貞明さん

貞明さんのこのお話をコメ農家である私が解説しますと、同じ農家といっても、果樹農家とコメ農家では経営内容と必要な設備が大きく異なるところがあります。
例えば、果樹栽培には果樹用の設備投資が、稲作には稲作用の設備投資が必要なところです。稲作は機械化が進んでいるので、機械に対する設備投資、つまりコストが多くかかることになります。コストを上手にやりくりするには、作業の効率化を計って多くの田んぼを管理し、スケールメリットを活かす必要があります。そうすると、ある程度広い耕作地が必要となり、それに併せた莫大な初期投資が必要になります。果樹と比較して稲作の方がどうしても設備投資が大きくなるのです。
日本の地域農業の基盤はなんといっても“コメ”ではありますが、その生産・管理の負担を個々人で行うことによって、その地域の主力農作物の生産に影響が出る話は我々農家の間ではよく聞きます。
ですので、コメの生産を一手に引き受けるコメ生産組織の存在や、高額な機械を共有し共同で米の生産・管理を行うような仕組みがもっと利用しやすい形で地域ごとにできていく必要があるな、と再認識しました。

父が基盤を整えてくれたから

お子さんが三人いらっしゃる貞明さん。しかし、
「子供たちに家業をやれという事は無かった。だから身内でなくともやりたい人が誰かいれば経営を引き継いでもらうつもりだった。」と振り返ります。

そんな貞明さんでしたが、全く予想だにしてなかったことに、末のお子さんである雅人さんが経営を継ぐという意思表示をしてきたのです。
 
雅人さんにその理由をうかがうと、
「当時、工場で勤務していましたが、夜勤を伴う工場の仕事よりも、自然に触れ合う農業の方が性に合うと思ったので。」とお話しされました。
 
そしてさらに、
「父が基盤を整えてくれたから、というのも大きいです。それは機械や農地というだけではありません。うちは人を雇用してきましたから給与制度もしっかりしていましたし、
人を雇用する以上就業時間を決めることは当然していますからメリハリもはっきりしていたんです。」

渋谷雅人さん

農業における従前の家族経営における問題点として、経営と生活の境目が明確でなくいわゆる“どんぶり勘定”に陥ったり、就業時間が流動的であることが長い間指摘されてきました。
その解消のため農林水産省では、経営方針や役割分担、家族みんなが働きやすい就業環境などについて、家族間の十分な話し合いに基づき、取り決める“家族経営協定”という制度を推進してきました。
 
貞明さんはそのことについて、
「“家族経営協定”の話が来た時に、うちではずっと前から当然にやっていることなのに今更何で?という感じでしたね。」
と微笑まれました。
 
農業の後継者不足と言いますと何か特別な手を打たなければならないと思いがちですが、もっと基本的なことを明確化して実行できれば効果があるのではないか、渋谷さんたちのお話をうかがって思いました。
 
就農後、雅人さんは妻の敏江さんとのご縁をえてめでたくご結婚。貞明さんも、
「俺も足腰が痛いとは言っていられない。」
と経営が将来に向け好循環を見せつつあった矢先に発生したのが、東日本大震災と原発事故でした。

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次回、風評による影響とは言いたくない は9月25日にお届けいたします。


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