
“戦時・災害時などの極限状況で、いかに人間性を保護してきたのか(しうるのか否か)、それがのちにどのような意味をもったのか(もつのか否か)について研究しています。”
山梨学院大学 法学部政治行政学科教授 小菅信子さんのWebサイト( http://researchmap.jp/read0191391/ )にはこのように記されています。
東日本大震災後、小菅さんは福島を始めとした被災地に幾度となく足を運び、人と会い、当地の食材を食し、その復興の歩みをつぶさに見てこられました。
不幸にして起きてしまった福島県の食を巡る考え方の行き違いや不安。その“和解”に向けて、戦後和解などを研究されてきた視点から導き出されるお考えや、被災地を訪れる中で新たに生まれたつながりについて、うかがいました。
今回はその2です。
その1 もっと自信を持って (2014年9月4日公開)
その2 福島の1ページだったね、そう振り返る事ができる日が必ず来る (2014年9月5日公開)
和解はタイミング
文字通り降ってわいたような災難から生まれてしまった福島県の食を巡る考え方の行き違いや不安。ここからなんとか“和解”することは出来ないのかを、戦後の対立や和解をご専門とされる小菅さんに率直にうかがいました。
「“和解”はタイミングです。今後それを見計らわなければなりません。」
さらに小菅さんはこうおっしゃいました。

震災後不通となっているJR常磐線 富岡駅前で咲くバラ
「そして、全員とは出来ないと思ってください。」
戦時中に捕虜になった人と捕虜にした側との極めて深くそして絡み合った対立、そしてその和解について造詣の深い小菅さんの言葉は、私の胸にぐさりと突き刺さりました。
それでも、例え全員とは無理だとしても、より多くの方との対立から和解への扉を開くために、そのための取り組みを真摯に、決して急がず、決して遅れず、行っていくことがこれからの私たちに課せられた大きな使命であることを、強く心に誓いました。
どういうことをしてもらえたら“うれしい”のかを明確にすること
その一方で小菅さんは、被災地を巡り、その中と外で新しく生まれる・生まれたつながりについても言及されました。
「日本中・世界中に福島のために何か応援したいと思っている方は大勢います。しかし、“でも迷惑がかかったら…”と逡巡している場合が多いのではないでしょうか。」
と小菅さん。
「ですから、どういうことをしてもらえたら“うれしい”のかを明確にすることが大事です。」
日本人気質と言いますか、人に何かをしてもらうという事に対して遠慮しがちな所が私たちにはあります。しかし、そのことによってせっかくの善意を無駄にしたり、せっかくの善意の行動がすれ違いになったりしてしまい、あるいは対立すら引き起こすことがある、確かにそうかもしれないと思いました。
しっかりと“こうしてほしい”と意思表示することに臆す必要はないという視点を教えていただきました。
つながりを大切に
また、福島から他の地域への情報発信については、
「福島から他の地域の方に向かっての情報提供としては、 “提案する”というアプローチがいいと思っています。福島県を訪れたいと思っている方のために、そのニーズに合った様々なコースを準備したり紹介したりするなどです。こちらについては、様々なニーズがある中で、出来る事から既に取り組まれていることだと思います。
そういったことが、福島のために何かしたいと思っている方達にとってのいい“きっかけ”になるし、既になっているのだと思います。」
さらに小菅さんは
「すでに生まれている新しいつながりが沢山あるはずです。それを大事にして、さらなる文化交流などの継続につなげていきたいですね。」
私は最近、ベラルーシからの留学生とその引率などを引き受けていらしたベラルーシ在住の日本人の方とお会いしました。
その時のベラルーシの方のお話で”原発事故直後は日本からたくさんの視察が来たけれども、最近はさっぱりです。現地の方の中には「データをもらうだけもらったらそれっきりなのでしょうか?」と疑念を呈す方もいます”という意見もありました。
このように、せっかく生まれたつながりがあまり続いていない場合もあるようです。
福島県の農林水産業は、日本中・世界中の多くの方々のご支援を受けて、今ここまでたどり着くことができました。
そのご恩やつながりを、さらに未来につながるような関係に高めていくことを改めて思い直させていただいた一言でした。
最後に小菅さんは、この未曾有の危機についてこうおっしゃいました。
「福島の1ページだったね、そう振り返ることができる日が必ず来ると信じています。」
時間がかかるかもしれません。しかし、人間は幾度となくそういった危機から立ち上がり、より良い世界を創り上げてきました。
そういった事象を人を中心として研究されてきた小菅さん。その小菅さんが福島県の人を見てそのようにおっしゃっているのなら、絶対に達成できる、そう確信する対談となりました。