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東日本大震災とそれに伴う原発事故。内陸における農林業に多大な被害をもたらしましたが、大海原を生業とする漁業に対しては更に過酷な環境変化をもたらしました。
津波による人的・物的被害にとどまらず、放射性物質の海洋への流出により漁を行うことすらままならなかったのです。
しかしながら、関係各位の海洋・海産物の厳密なる調査・状況把握、そして疑わしい海域・魚種を外し、流通ルートを明確化するなどの対応を取ることによって、試験操業まで漕ぎ着けるところまで来ました。
先に試験操業を開始した県北部に引き続き、昨年10月には県南部においても試験操業が開始されました。
福島県の漁業に差し込む一条の光。今回は小名浜漁港にお伺いし、試験操業について取材しました。
今回はその2です。
その1 試験操業の現場にて (2014年4月24日公開)
その2 全員同じ考えを持っているということはない (2014年4月25日公開)
その3 産地としての輪を大事にしたい (2014年4月28日公開)
時間がたちすぎては間に合わない
前述の通り、モニタリング調査で魚種によって安全性に確証が持てるようになったことがまず大前提としてあったというのはもちろんですが、賛否両論あるなかで昨年10月に試験操業に踏み切った経緯についてもお話しいただきました。
「漁師さんからも時期尚早だという意見はありましたし、今もそう思っていらっしゃる方もいます。
ですが、大市場から“福島県産の水産物が無くても困らない”といった話も聞いており、他産地にシフトされてしまって余りにも時間がたちすぎると、失地挽回することもままならないという判断もありました。」と中野さん。
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それ以上に、これ以上時間がたってしまうと産地が崩壊してしまうという危惧があったそうです。
「汚染水の問題がある以上、漁をしなくとも漁業に対する賠償は続きますから、その方が楽かもしれません。ですが、漁をしないとやりがいを失って気持ちが萎えてしまいます。そして漁師さんたちに他の仕事につけという意見もありますが、学校を卒業してからずっと漁業に携わってきた専門職その道のプロである反面、それであるがゆえに“つぶしが効きにくい”のです。」
机上の計算では合理的であることでも、現場に落とし込むと全く実情に合わないことも多々あることを再度認識しました。
「また、漁を再開するとしてもそれまで時間がかかり過ぎると、卸や箱屋、氷屋、小売などが耐え切れずに無くなってしまうかもしれません。
魚が水揚げされても、扱うものがいなければ産地は成り立たないんです。」
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それを伺って、私は震災直後、肥料屋さんに言われた一言を思い出しました。
“農家さんにはみんな注目して守ってくれるかもしれないけれども、うちらは一体どうなるんでしょうね”と。
産地というものは生産者だけいれば何とかなるというものではありません。それを支える多くの方々がいてこその産地なのです。
私は、今まで“普通”だと思っていたことは様々な方々の力添えがあって“普通”足り得ていたんだ、そのことをこの震災・原発事故を通して痛感しました。
それは福島県の食に携わる方々皆そうだと思いますし、それがゆえに“心の奥ゆき”というものも広がったのではないかと思っています。
中野さんは「産地としての輪を大事にしていきたい」とおっしゃいましたが、この言葉にこそ復興の大きなヒントが含まれているのではないか、そう思います。
不安材料だらけではない
水産業に携わる方のお話では、カツオには“ゴリ”と呼ばれるものがあるそうです。身が固くて食感が悪いので敬遠されるものだそうです。
しかし、地元の生活者に聞いてもその単語はほとんど知られていません。なぜならカツオは当然“やわらかい”ものだからです。
見た目から見分けるのは非常に難しいそうですが、極力そういった品質の良くないものが生活者の方々に届かないように、細心の注意が払われているのです。
そう、福島県の漁業はその自然の豊かさはもちろんのこと、漁業者の皆さんの目利きのレベルも相当高いのです。
当然に享受してきた食は、実はとんでもなく高いレベルの食だった、この震災をきっかけに地元の食というものを見直すきっかけになったという方と何人も出会ってきました。
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「しばらく漁が出来なかったおかげで、海に魚が増え大きいものも多い状況です。」と中野さん。
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災い転じて福となすというには余りにも大きい災いでありますが、はからずして海の豊かさを回復することともなっているのです。
「不安材料だらけではありません」との中野さんの言葉は決して強がりではないのです。
最後に中野さんに生活者の皆さんに対するメッセージを頂きました。
「福島県の水産物を最初から毛嫌いしないでほしいです。しっかりと安全性を確認しそれが皆さんの安心につながるように、万全を期します。
ぜひ手に取って頂いて食べてもらえればと思います。」
福島県の漁業が以前と同じような賑わいを取り戻すまでにはまだまだ長い航海が必要かもしれませんし、荒波にも悩まされることでしょう。
ですが、この荒波を乗り越えたあとには穏やかな大海が広がっている、そのことを確信した取材となりました。