想いを行動に
原子力災害という未曽有の危機の中でどのようにして営農を続けていくか、そのためにどのような行動をしてきたか伺いました。
米が汚染されないか、色々なデータを得るためにはサンプルは多い方が良い、
生産できるところはすべて作ることを決められたそう。
そして、チェルノブイリ事故後得られた知見をかき集めてそれを読むとどうもカリウムが即効的に放射性セシウムの吸収を抑える効果がありそうだ、
東京大学の過去の研究を見ると安定したマイナスの電荷をもつケイ酸資材と放射性セシウムは電気的にくっつくようだ、
そういった知見を基に実際にカリウムやケイ酸資材を圃場に散布し、
田んぼ一枚ごとに坪刈りをして、田んぼ一枚ごとに放射性物質の玄米への移行について、
独自に導入した2台の食品放射性物質測定器でデータを取ったそうです。
そこには、福島の農家はかわいそうだから買ってくださいということではいけない、
科学的根拠をもって我々も責任を持たなくてはならない。
それ以前に我々の中から健康被害者を出したのでは奴隷と一緒ではないか、
まず自分たちから守っていくんだ、その強い想いがありました。
言葉にすると簡単なことです。
しかし一年目からここまでの体制を“独自に”整えるというのはまさしく驚異的といっても過言ではありません。
その当時、福島県で営農を続けるためにはこういった体制を整えなければならない、
そういった考えは誰もが抱いていました。
しかしその考えを実際に具現化するため徹底的に学び即座に行動する、
ここまでやっていた方はまだほとんどいなかったのです。
想い考えるだけなら誰でも出来ること、
それを行動に移せるかが大きな違いであると改めて思い知らされました。
日本人が世界に誇れるものは“観察力”
米以外にも、測定できる農産物は徹底的に測定していったそうですが、
その中で“お茶”と“栗”が比較的放射性セシウムが検出される傾向があることが分かりました。
そこで伊藤さんは両作物に含まれる“タンニン”に着目し、
同じく“タンニン”が含まれる“柿”も放射性セシウムを吸収しやすいのではないかと推測したそうです。
案の定“柿”からも放射性物質が検出される傾向が。
伊藤さんは物理学が専門の方とお話した際に、その方からタンニンの性質になぜ気がついのかと聞かれて、
先生はタンニンが放射性セシウムを吸着する原因の可能性があるという推測は出来るかもしれない。
しかし“お茶”と“栗”と“柿”には共通して“タンニン”が含まれているということは農学の世界を知っているから分かること。
物理学の視点だけでは分からないでしょう、と話したそうです。
だからこそ、専門的な知見がある方が現場に出ればかなり短期間に相当な対策が立つともお話されたそうです。
“肩書き”じゃない、日本人が世界に誇れるものは“観察力”なんだ、と伊藤さん。
その観察力があるからこそ、仮説が立てられる。
仮説が立てられない人は検証することが出来ない。
これは、実態を正しく知ることによって正しい“対策”を立てることが出来る、
と言い換えることが出来る、そのように私は受け取りました。
ここには重要な示唆が含まれていると思います。
タンニンが放射性セシウムを吸収しやすい原因であるとは、様々な実証試験・研究を経なければ断言することはできません。
しかし、そこに着目することが出来るかどうかが、福島県の農業の復興のスピードを大きく左右するのです。
“研究施設”ではなく“実際の現場”において“観察”し、放射性物質の吸収のメカニズムについて仮説を立てる。
その仮説について実証試験・研究を行いながら、その仮説に基づいた“対処法”を同時並行で行う。
こういった“現場の事実”によって導き出された情報によって我々生産者は、
放射性物質を吸収しやすい作物の栽培・栽培法を避ける、効果的な資材を投入するなど、
“正しい”対策を打つことができるのです。
これは机上においては中々難しいことであり、
伊藤さんもおっしゃるように現場に来て・見て・聞いて・感じて初めて分かることも多いのです。