「風評被害」。
原発事故後にこの単語をいったい何度聞いたことでしょう?
福島県の「食」にかかわる産業にとって、この「風評被害」こそが、
最も高い障壁のように立ちはだかっているように感じられます。
メディアや書籍・新聞などで見ない日は無い「風評被害」。
しかしながら、そもそも「風評被害」とは何なのか?原因は?解決策は?過去の事例は?
こういったことが語られているシーンはあまり目にしません。
そういった観点から、今回は震災後に書籍「風評被害-そのメカニズムを考える」を執筆された、
東洋大学 社会学部 メディアコミュニケーション学科 准教授 関谷直也さんにお話を伺いました。
今回は-その3-です。
その1 風評被害とは (2013年4月30日公開)
その2 きっかけとして自分たちを振り返ろう (2013年5月01日公開)
その3 意識されていることをチャンスに (2013年5月02日公開)
意識されていることをチャンスに
何度も福島県を訪れその状況をつぶさにご覧になり分析されている関谷さん。
この状況下の福島県において生まれた、新しい可能性についてもお話しいただきました。
新潟県出身ということで、やはり米は新潟県のものがおいしいと思っていたし、魚もお酒もそうだと思っていましたが、
震災後、福島県や宮城県・岩手県を何度も訪れていくうちに、当地のそれもやはり美味しかった、とおっしゃいました。
今回の事故をきっかけとして「注目」されていることは事実なので、
いかに自分たちのブランドとして魅力をアピールしていくかを考えていけば、
チャンスと言えばチャンス、少なくとも私は食べるようになった、とも。
おそらく今回の事故の前までは、出身地の食べ物は意識しても、他県産のものはあまり意識していなかった。
それが福島県の食材は良くも悪くも意識されているので、とらえ方によってはチャンスだと思います。
しっかり検査されており安全だとわかってもいるので、
それはプラスに変えていけるきっかけになるのではないかと考えています。
この言葉はまさしくその通りだと私は考えました。
もちろん、
福島県産の食材や福島県そのものに対してネガティブなイメージをお持ちになった方がいらっしゃるのは事実です。
しかしながら、それ以上に福島県全体で取り組んでいる行動を信頼し、
そして何よりも福島県の食材を「美味しい」と思って意識してくださる方も確実に増えていることを、私は実感しています。
「風評被害」という言葉は実にとらえどころがないものです。
しかしその解消ばかりに目が行ってしまうと、
結果が出なくても「風評被害」だから仕方がないといった逃げにつながりかねませんし、
せっかく目の前にある「いままで気づくことが出来なかった福島のいいものを生かす」チャンスを逃すことにもなります。
私は、いま噴出している問題というものは、実は以前から抱えてきた問題が大部分を占めている、
そのようにこの2年間を経て、感じています。
もちろん原発事故というものは起きてはならなかったし、多大な被害をもたらしました。
しかし、その事実を変えることが出来ない以上、よりよいものを創り上げていくスタートラインとする、
このことが大事なのではないか、そのように考えています。
「風評被害」という言葉に恐れおののき目を曇らせてはならない、
そのことを学んだ意義深い対談となった、私はそう確信しています。