
みなさんの福島県の海・漁業・水産物に対するイメージはどのようなものでしょうか?
福島の水産物は、復興に向けて歩みを進めています。
今回は、漁業の流通・経営・産業面を経済学的に研究する漁業経済学の専門家で、実際に福島県の漁港に行って漁業者や流通の現場などを研究されてきた、
北海学園大学 教授の濱田武士さんのお話をうかがいました。
本日より2回に渡ってお届けします。
その1 水産物の汚染状況はかなり改善され、元に戻りつつある (2016年7月14日公開)
その2 着実に前に進んでいる福島県の漁業 (2016年7月15日公開)
水産物の汚染状況はかなり改善され、元に戻りつつある
「“安全と安心は違う”といいますが、安心をご理解いただくのはなかなか難しいことです。
安全も安心も疑わずに食べてきた状況が、東日本大震災とそれに伴う原発事故で壊れてしまった。以前の状況を取り戻すことは難しく、この壁をどう乗り越えなくてはいけないのかをずっと考えてきました。」
と濱田さん。その壁を乗り越えるための第一歩として、現在の福島県の水産物の状況を知ることが大切なのだと次のように述べられました。

「震災当初はモニタリング調査された水産物の50パーセント以上のものが放射性物質の基準値を超えていましたが、現在は平成25年の中ごろから1パーセント台になり、水産物の汚染状況はかなり改善され、元に戻りつつあります。」
その推移は水産庁のWebサイト内「水産物の放射性物質調査の結果について」をご覧いただくとわかると思いますが、平成27年の4月以降の福島県における調査では基準値(100 Bq/kg)を超える水産物(淡水魚を含む)が大幅に減少しました。その理由として、濱田さんは
「海は流動的なので拡散して薄めていく力がある、つまり環境の収容力が非常に大きい。水は時間とともに綺麗になっていくため、福島県沖の大部分の場所で海水は以前に戻り、海底土も元に戻りつつあるのです。
また魚は海水・餌とともに経口摂取しますが、水はえらから抜けるものもあり、筋肉に入った放射性セシウムも100日くらいで排出されますので、体にずっと残るものではない。
ですから海水さえ・環境さえ元に戻ればおのずとこういう結果になります。」
また、現在行われている試験操業における基準づくりや検査体制についてもお話しされました。
「試験操業では、モニタリング検査でずっと50ベクレルを継続して切っているものを対象魚種にしており、対象魚種以外は海に戻します。
また、50ベクレル以上なら出荷停止とし、25ベクレル以上なら水産試験場に設置されているゲルマニウム半導体検出器によって再検査を行うなど、検査も基準も非常に厳格です。」
そこまで徹底した対応がとられている試験操業ですが、その実施においては漁業者の中に賛否両論が渦巻いていたことも事実です。それでも実施に踏み切った理由について、
「漁業者は漁労から離れていることがストレスになります。海を見ていないだけでもストレスがたまるのですよね。加えて漁業就業者の漁村離れも懸念されました。ですから、魚の種類によって濃縮係数が違うことや、魚体に蓄積する濃度が違うという事実が分かってくるにつれて、出荷できる魚があるのでは?と考え、試験操業が提言されたのです。
もちろん、試験操業という形をとっていないと安心して買ってもらえない、急に操業を再開しても値段がつかないだろうという思いもあったようです。
安全性を確認しながら少しずつ行っています。」

モニタリング検査の様子
その試験操業ですが漁獲量自体は震災前と比べると少量であるものの、開始当初の23隻から200隻以上となり、原発から20キロ圏内以外すべてが操業区域となるなど、少しずつ着実に前に進んでいます。
「漁業者は魚を獲るだけではだめで、市場に卸されてセリが行われて値段が付いてはじめて自分たちの生業を感じる、生きた心地がするというのです。ですから、試験操業は流通までしっかりやることが大事なのです。
これ自体を知ってもらう、理解してもらうことがまずは第一歩だと思います。」
ぜひ皆さんにも知っていただければと思います。

次回、着実に前に進んでいる福島県の漁業 は7月15日にお届けいたします。