

私たち、福島県で食に関する産業に携わる者にとって、原発事故はまさに悪夢といえるものでした。その事故の影響の中、もがき苦しみながらも、わずかに見えた希望をもとに新しい可能性を花開かせようと動き始めている方々が、少しずつ増えてきました。
今回ご紹介するプロジェクトの面々もそのような方々の集団です。
特筆すべきなのは、生産者・料理人・飲食店・学校・自治体と業界の枠を超えて、地域一丸となってその地域の魅力づくりに取り組むそのスタイルです。

そのプロジェクト、『100%いわき市産』にこだわったグリーンスムージー「Hyaccoi(ひゃっこい)」プロジェクトの中心メンバー、生産者の「ファーム白石」代表 白石長利さん、「Hagi(ハギ)フランス料理店」のオーナーシェフ 萩 春朋さん、株式会社47PLANNING(ヨンナナプランニング)代表取締役でご実家が製氷会社「丸和製氷」を営む鈴木賢治さんの3名にお話を伺いました。
今回はその3です。
その1 オールいわき市のプロジェクト (2014年2月21日公開)
その2 地元の食材は宝物 (2014年2月24日公開)
その3 みんなで乗り越えてきた、そしてこれからも乗り越えて行こう (2014年2月25日公開)
その先にある問題解決のために
生産者の「ファーム白石」代表、白石長利さん。有機資材にも極力頼らない、土本来の力を引き出すことを重視した特殊な農法を採用するなど、こだわりの農作物を栽培しています。
以前取材したときに書いていただいたフリップには「できる事は全力で!!」と記されています。
まさにその想いの通りに「Hyaccoi(ひゃっこい)」プロジェクトに邁進されているわけですが、単にプロジェクトを実行することが目的ではないことを力説されていました。

「原発事故などで売れない野菜を使う、そういう小さい話ではないんです。
“スムージー”という形でも美味しく野菜は取れるんですよ、という今までにないアプローチの仕方、お客様に対する提案なんです。」

旬の野菜を使った“新鮮な”スムージー、確かに今までとは一味違う発想であり、このスムージーを通して、いわきの野菜の美味しさを知って欲しいという思いがひしひしと伝わってきます。
「最初はスムージーですが、それだけではなく違う攻め方もしたいと思っています。
そしてその先にある問題解決のために「Hyaccoi(ひゃっこい)」プロジェクトをモデルケースにしたい。
一つは、規格外品野菜の有効活用。味には全く問題が無いのに“市場の規格”にそぐわないためはじかれている野菜たちを無駄にせず、農家の所得向上にもつなげたい。
もう一つは、農家と料理人をうまくつなげて、「福島県の地産地消のネットワーク」を形成すること。いわきだけではなく、県内各地でそういったネットワークが生まれるきっかけにしていきたいですね。」
大きな困難を抱えてそれに立ち向かっていかねばならないけれども、その先にある農業の抱える根本的な問題解決につなげたい、というところまで見据えているのです。
大変スケールの大きい話ですが「できる事は全力で!!」を体現している白石さんならできる、そう私は思いました。

突き抜けた6次化商品を世界に発信したい

株式会社47PLANNING(ヨンナナプランニング)代表取締役 鈴木賢治さん。
全国の地域の活性化に取組む、いわき市出身の新進気鋭の若手経営者で、実家は製氷会社を営んでいます。
以前対談させていただいた時もその熱く語る姿が印象的でした。
「風評被害を受けてかわいそうだから、そうやって支えて頂く時期は過ぎたと思うんです。
やはり、いいものだから美味しいから飲みたい、そういう商品を創り上げなければだめだと思います。」と鈴木さん。
「いわきは震災と原発事故によって大変な被害を受けました。でもそこから得た学びも多かったのです。
こんなときだからこそ、そのいわきからみんなの得意分野を合わせて突き抜けた6次化商品を世界に発信したい。
そしてそれを見たまわりが後に続くように、いわき→東北→日本と盛り上げていきたいんです。」とあの時のように熱く語られました。

実家の製氷会社は津波により甚大な被害を受け、開店したての飲食店も風評に悩まされた鈴木さん。
今のこの心境にたどり着くまでどれだけの葛藤を乗り越えたことか、同じような環境を経験した私には痛いほどわかります。
でもだからこそ、その言葉には重みがあり、行動には想いが乗るのです。
その込められた思い
「Hyaccoi(ひゃっこい)」プロジェクトは、地域活性化という目的があります。そしてそれだけではなく、困難な出来事に遭遇しながらも、力強く進んでいこうという思いが込められています。
このプロジェクトについて書かれたWebサイトにはこう書かれていました。
“私たちはこのスムージーを「Hyaccoi」と名付けました。冷たいを表す東北の方言「ひゃっこい」と、百種類の野菜と恋をしてスムージーを作ろうという「百恋」という意味を込めています。震災後に出てきた、ざっと100個はあったであろう問題の数々をみんなで乗り越えてきた、そしてこれからも乗り越えていこう、そんな気持ちも込めて、私たちはHyaccoiを作ります。”

いわきから始まったこのプロジェクト。福島県内の各地でも芽吹き始めたそれぞれの想いが乗った様々なプロジェクトのパイオニアとなる予感がしています。
なお、グリーンスムージー「Hyaccoi(ひゃっこい)」は2014年4月中旬頃から、JRいわき駅ビル内にて店頭販売の予定です。今から待ち遠しいですね。