

私たち、福島県で食に関する産業に携わる者にとって、原発事故はまさに悪夢といえるものでした。その事故の影響の中、もがき苦しみながらも、わずかに見えた希望をもとに新しい可能性を花開かせようと動き始めている方々が、少しずつ増えてきました。
今回ご紹介するプロジェクトの面々もそのような方々の集団です。
特筆すべきなのは、生産者・料理人・飲食店・学校・自治体と業界の枠を超えて、地域一丸となってその地域の魅力づくりに取り組むそのスタイルです。

そのプロジェクト、『100%いわき市産』にこだわったグリーンスムージー「Hyaccoi(ひゃっこい)」プロジェクトの中心メンバー、生産者の「ファーム白石」代表 白石長利さん、「Hagi(ハギ)フランス料理店」のオーナーシェフ 萩 春朋さん、株式会社47PLANNING(ヨンナナプランニング)代表取締役でご実家が製氷会社「丸和製氷」を営む鈴木賢治さんの3名にお話を伺いました。
今回はその2です。
その1 オールいわき市のプロジェクト (2014年2月21日公開)
その2 地元の食材は宝物 (2014年2月24日公開)
その3 みんなで乗り越えてきた、そしてこれからも乗り越えて行こう (2014年2月25日公開)

フランス人以外で初めて仏大統領府の厨房に立ったシェフ
『100%いわき産』にこだわったグリーンスムージー「Hyaccoi(ひゃっこい)」の味、その監修をしたのが、いわきに「Hagiフランス料理店」を構える、萩 春朋さん。
1日1組しか予約を取らず、コースメニューの内容や各料理の案内をしないという大変個性的なシステムを取っています。それはなぜか?
Hagiフランス料理のWebサイトにはこのように記されています。
“自然なままいわきの旬でつくります。無理に季節外れの食材を追わない。だから、今月のコースや各料理の案内はしていません。
ご予約いただいた日にそろう、旬の食材を仕入、ていねいに仕込み、ご予約頂いたお客様だけのくつろげる部屋へ自然な料理を届けます”
“一期一会”という言葉をありのままに体現しているお店と言えるかもしれません。
また萩さんは昨年、世界の首脳や王室の専属料理人たちで構成される団体「クラブ・デ・シェフ・デ・シェフ(Club des Chefs des Chefs)」の招待で渡仏。
フランス人以外で初めてフランス大統領府エリゼ宮の厨房に入り、オランド仏大統領に食事を提供するなど、今福島県で最も注目されるシェフの一人と言えるでしょう。

最初はとにかく不味かった
その萩シェフに「Hyaccoi(ひゃっこい)」開発のきっかけを伺いました。
「白石君と賢治君と囲んだ酒の席で、自分たちの力でいわき発の何か出来ることはないかという話になりました。
その中でそれぞれの持っているリソースとして、白石君が新鮮な野菜を、賢治君が極上の氷と“食”をプロデュースする会社を、そして私が料理の技術を持っている。
それを活かせるものは何か?と考えた時に“スムージー”というアイディアが出てきたんです。」と萩さん。

みんなの持っているものを最大限活用し、何かを産み出す。何か新しいことをゼロからスタートすることばかりが“創る”ということではないことを、再確認するお話です。
しかし物事はそれほど簡単に進みませんでした。
「さっそく試作してみたのですが、とにかく不味い!何度も試したのですが中々いい味は出せませんでした。」と、当時を思い出しながら苦笑いのシェフ。

「それでも、いつでも同じメニューの良くあるフルーツのスムージーにはしたくなかった。いわきの生産者さんが育てた新鮮な旬の野菜を使わなけれれば意味がないんです。」
萩さんの言葉から、いわきの食材に対する熱い思いが伝わってきます。
「野菜も豆乳も氷も最高級のものを使って味も整ってきた、けれども何かが足りない。そう悩んでいた時にふと思い出したのが磐城農業高校の学生たちが作った乳酸菌飲料でした。この乳酸菌飲料が最後のワンピースだったんです。」
確かに試飲したときに最後に感じられるほのかな酸味、この乳酸菌特有の酸味が野菜の青臭さを余韻として残さず、爽やかな味に仕上げているな、そう思いました。
いわきの食を盛り上げようとするプロジェクトの最後のワンピースが、いわきで唯一の農業高校「磐城農業高校」の生徒たちが作った乳酸菌飲料。
事実は小説よりも奇なりとは申しますが、震災後、このような奇跡的な出会い・繋がりを何度も目撃してきた私にはこれは必然であるとも思え、行動するところに得難い縁が生まれるということを強く認識しました。
「Hyaccoi(ひゃっこい)」で地元の良さを知って欲しい

「実は地元が好きではなかった」と萩さん。
「都会に出た時に“なまり”を指摘されることなどがすごく嫌でした。
でも、自分の所の地域資源を東京のシェフが欲しがっている、それぐらい凄いということを目の当たりにして、自分の地元に自信が出たんです。」
「私が調理の監修をした「Hyaccoi(ひゃっこい)」はこれで完成、というものではなく、これからみんなで色々とアレンジして欲しいと思っています。
コンクールなどを開催して、それぞれが“俺たちの「Hyaccoi(ひゃっこい)」”を作って欲しい。
その過程の中で地元の食材を知るきっかけになったらすごく良いですよね。地元の食材は宝物だから。」
パティスリーポタジエの柿沢さんとの対談の時も感じましたが、地域資源を活かした新しい食を創る上で世の中に広まるということはもちろん大事なのだけれども、それ以上にそれに触れる地元の人たちが地元に愛着を感じるきっかけとなること、これも大変重要なことであると萩さんからも教えて頂きました。
次回、みんなで乗り越えてきた、そしてこれからも乗り越えて行こう は2月25日にお届けいたします。