
2014年10月20日
南会津町の水引地区に茅葺屋根の民家が数軒残っていると聞き、早速訪ねました。
標高800メートルの山深い集落では28軒のうち、なんと7軒が茅葺屋根とのこと!
今回宿泊するのは、茅葺屋根の「民宿 離騒館(りそうかん)」さんです。


「民宿 離騒館」さんは、築110年の茅葺家屋の民宿です。外観を見ただけでわくわくします。こちらに宿泊できるとはとても楽しみです。
綺麗に整えられた茅葺屋根のたたずまいに圧倒されながら、玄関へ向かいます。
一歩中へ足を踏み入れると、「離騒館」の名のごとく、静かで落ち着いた空間が広がっていました。昔の人々の生活を垣間見れるのではないかと期待に胸が躍りました。


お出迎えいただいたのは、千葉県ご出身のオーナーの五十嵐恵子さん。
こちらに嫁いでから数年後にご主人を事故で亡くされ、平成12年、お子さんを育てるために覚悟を決めて、お一人で民宿を始められたそうです。
当時、周りの家屋がどんどん茅葺屋根からトタン屋根に変わっていく様子を見ながら、「ここでの暮らし、農村文化を受け継いでいく義務がある」と強く思われたのだとか。そして、周囲の反対を押切って茅葺屋根のお宅で暮らすという、昔ながらの生活スタイルを選択されたのだそうです。
春から次の雪が降る季節までの期間に畑を耕し、収穫をして冬のための蓄えをします。
冬の暖房は蒔ストーブのみ。暖かい季節に、一年分の薪の準備をしなくてはなりません。
家の周りにはたくさんの薪が積み上げられていました。これだけの量の薪を蓄えておくのは、想像するだけでも大変な作業だろうと感じました。

茅葺屋根を守るには囲炉裏で炭をおこし、日々その煙で屋根を燻すのが一番なのだそうです。しかし、コストが掛り過ぎるので断念した結果、昔は20年おきに屋根の葺き替えをしていたのが、現在では10年おきになってしまっているのだそうです。
民宿で提供しているお料理は、以前栄養士をされていたという恵子さんが腕をふるう健康を考えたメニューです。
料理のモットーは「シンプルイズベスト」だそうで、素材の味を最大限に生かす調理法でおいしさを引き出しているとのこと。
取材当日、一番のお薦めは大きなトマトの輪切りでした。
身がしっかりとした固めのトマトは味がとても濃くて、何もつけなくても甘み、酸味、青っぽさなど様々な味覚が口の中いっぱいに広がっていきます。
素材を味わうというのは、こういうことなのだと改めて感じました。
シンプルなトマトの次はビーフシチューを出していただきました。あまりにもおいしかったのでレシピをうかがったところ、地元産のトマトをとにかく沢山入れることがコツなのだそうです。あのおいしいトマトが、ビーフシチューのおいしさのヒミツにもなっていたのですね。


民宿で提供している野菜の多くは敷地内にある広大な畑で栽培されています。
畑では様々な作物を栽培されていました。


ご主人が亡くなりお一人になってからは、季節ごとに訪れる友人や知人が農作業を手伝ってくれているそうです。
皆さんと一緒に豆を収穫して味噌を仕込んだりするなど、時節毎に人々が「集う場」になっていることが楽しいと恵子さんはおっしゃいます。
今後も自分の生活スタイルを変えることなく、自然とともに暮らしていきたいそうです。
離騒館に来られるお客さんは、山登りが目的の人だけではなく、疲れた心を癒やすために訪れる人もいらっしゃるのだそうです。
この場所のゆっくりとしていて、自然とともにある時間は、疲れた心をやさしく包んでくれます。宿泊されたほとんどの方がリピーターになるというお話も納得です。
私も季節ごとにこちらを訪れ、それぞれの季節の暮らしを体験してみたいと思いました。
自然の美しさ、日本の原風景がここにはありました。

民宿 離騒館
【住所】福島県南会津郡南会津町水引469
【TEL】0241-78-2338
【宿泊料金】1泊2食 6200円(税込) ※冬期間暖房料金・1人500円
※「離騒館」さんでは農業体験はもちろん、恵子さんは山にも詳しく、登山ガイドや散策のガイドも受けていただけますのでお問い合わせください。